瀬戸内海の小さな島で生活している平山周吉と妻のとみこは、子供たちに会うために東京にやって来た。二人は個人病院を開く長男・幸一の家を訪れる。美容院を営む長女・滋子、舞台美術の仕事に携わる次男・昌次が集い、家族揃って食卓を囲むも束の間、忙しい日々を送る彼らは両親の面倒を見るのを嫌がり、両親をホテルに宿泊させようとする。周吉は寂しさを覚え、やめていた酒を飲んで騒動を起こしてしまう…。
■最初に今日は封切りになったばかりの『
東京家族』です。
本作は日本が世界に誇る名匠、
小津安二郎監督の最高傑作と評される
『東京物語』をモチーフにしたホームドラマです。
ところが僕は本作をみて驚きました。
モチーフどころかほとんど
東京物語そのまんまだったからです。
なのでこの文章は自然と
東京物語との比較になってしまいます。
またネタバレしないと書けないところが多すぎるので
これから観ようと思っている方はそっとブラウザを閉じてください。
■偉大な名匠・小津安二郎の特徴かつて小津作品の助監督を勤め、『スパイ・ゾルゲ』を最後に引退した
名監督篠田正浩(監督作に『沈黙 SILENCE』『少年時代』など)は
小津監督の作品を「何かが無くなっていく映画」と評しました。
小津監督の作品を見ると今ある日常の中からすこしづつ何かが消えていくことの無常感を
感じることと思います。
演出面でも小津監督の作品は無いものづくしです。
移動ショットなし、ティルトなし、パンニングなし、手持ちなし。
前シーンフィックスカットばかりを使用しています。
その他思いつく限り特徴を下に上げてみます。
1)タイトルとスタッフロールは格子状のキャンパスに白文字
2)オープニングとエンド以外はすべてカットインカットアウトつなぎ
3)導入部は状況説明となる遠景から中景が数カット
4)ひたすらフィックスカット
5)会話はバストアップの切り返し
会話場面では下の画像のような切り返しが多用されます。
6)ローポジションの水平アングルの多用
7)相似形の構図
通称座布団ショットとも呼ばれる人物がぎっしり詰まった相似形の構図。
小津監督の作品は全てがこのような特徴を持っています。
その潔癖なまでの映像哲学こそ名匠と呼ばれる由縁かと思います。
■本作についてさて何で長々と小津監督のことを書いたかというと
本作が上記の演出をまるまるコピーしていたからです。
山田洋次監督は『幸福の黄色いハンカチ』『男はつらいよ』『家族』『遙かなる山の呼び声』など
数々のロードムービーとホームドラマの傑作を送り出してきた
現在の名匠だと思います。
山田監督のことだからきっと山田監督なりに再構成した物語が観られると思いきや
シナリオばかりか演出までコピーしていたので拍子抜けしてしまいました。
オープニングは遠景・中景のつなぎ、ほぼ全てフィックスカット
全部カットインカットアウトつなぎ。
そこには
山田洋次監督らしさは全くありませんでした。
それだけ小津安次郎の作家性が強烈だったということなのでしょうか。
■物語とテーマについて本作も東京物語も終盤に至るまでの展開はほぼ同じです。
ただ明確に違うのは最後に何を言おうとしたのかということです。
東京家族で妻夫木さんが演じた昌次は東京物語では戦死しています。
また蒼井優さんが演じた紀子は昌次の元妻で未亡人という設定になっています。
ここが一番大事なところなんですが
東京物語では東京で実の子供達に邪険にされた周吉ととみのことを
もっとも親身になって世話したのが紀子です。
妻を亡くし最後の最後になって周吉はこう言います。
「実の子よりいわば他人のあんたの方が良くしてくれた」
つまり東京物語は家族という共同体が実はただの幻想に過ぎないのではないか?
ということを語りかけてくる作品なんです。
東京家族ではこうです。
妻の葬儀の後周吉は紀子にこう言います。
「女々しいと思っていた昌次のその女々しさは昌次が優しい人間だっていうことなんだな」
つまり
東京家族は一番駄目だと思っていた末っ子の良いところに妻を亡くしたことで
父が気づかされる。
どちらの方が強烈な印象を残すでしょうか?
僕は本作を観て改めて、家族というのが実は脆いものだという残酷な現実を
静かな淡々とした描写から冷徹に描きだした東京物語は、やはり傑作だと思いました。
■セリフ回しと演技がひどい本作は東京物語からかなり台詞まわしなども移植しています。
ここが本作の一番困ったところで、もとがなにせ半世紀前の映画なので
セリフ回しが固くて古くさく、またその台詞回しのせいで
現代劇なのに時代劇をやっているかのような大げさな芝居にみんななってしまっていました。
あと妻夫木さんはいくらなんでも泣き過ぎ。
ラストの20分間は常に誰かしら泣いているという状態で
すごい勢いで泣き落としにかかってきます。
■最後にとはいっても
邦画の中では普通に楽しめる範囲の作品だと思います。
ちょっと長過ぎるのが難点ですがおすすめです。
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