『そして父になる』—感想・レビュー

■個人的評価 82/100
— 親子は血か?過ごした時間か? —

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■あらすじ
大手建設会社に勤務し、都心の高級マンションで妻と息子と暮らす野々宮良多は、
人生の勝ち組で誰もがうらやむエリート街道を歩んできた。
そんなある日、病院からの電話で、6歳になる息子が出生時に取り違えられた他人の子どもだと判明する。
妻のみどりや取り違えの起こった相手方の斎木夫妻は、
それぞれ育てた子どもを手放すことに苦しむが、どうせなら早い方がいいという良多の意見で、
互いの子どもを“交換”することになる。 
今日は日本映画界を代表する映像作家
是枝裕和監督の新作です。

是枝監督作はどれも内容的にライト層への訴求力がなく
いつも客入りはいまいちの印象がありましたが
私が観た会はほぼ満員でした。
カンヌの審査員賞が話題になったのか
それとも福山雅治の集客力なのでしょうか?

■ホームドラマ
是枝監督は2008年の『歩いても 歩いても』から

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昨年のテレビドラマ『ゴーイング マイ ホーム』

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阿部寛、山口智子 他

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そして今回の『そして父になる
とホームドラマの名作を立て続けに送り出してきました。

面白いことにこの3作品はすべて主人公のラストネームが
"良多"で統一されています。
ただ『歩いても 歩いても』と『ゴーイング マイ ホーム』
では良多と老いた両親との関係が軸となっていたのに対して
今回は良多と幼い息子の関係に焦点が置かれた作りになっています。

よく是枝監督が発表してきたホームドラマは
小津 安二郎(リンク先wiki)
とよく比較されてきました。
小津監督作は「今ある日常から何かが少しづつ消えていく映画」
と評されます。
家族の中から誰かが結婚して家を出て
そして家の中から葬式を出し…
という風に今ある景色の中から何かが消えていく無常観を現した言葉です。
『歩いても 歩いても』も『ゴーイング マイ ホーム』も
その通りに何かが消えていく作品でした。

が、本作は消えていくよりも新しく構築される
困難でも希望が提示される爽やかさを感じる展開で
是枝監督の心境にも変化があったのかなと思う次第です。

そして父になる

■ストーリー、キャラクター像
本作の主人公"良多"は是枝作品では珍しい
かなりステレオタイプなエリートキャラです。
ワーカホリックで休日も会社に行き
たまに過ごす息子との時間でも厳しく接しています。

逆にもう一組の取り違えられた家族である
斎木夫妻の旦那はいい加減な性格で生活レベルも高いとは言えなくても
子供との時間を大切にしていて家では笑顔が絶えません。

現実的には子供はどちらの環境で育った方が良いか
といえばどっちが正しいというわけではないと思います。
が、少なくとも本作では後者を善きものと感じられるように
自然と誘導される作りになっています。

なぜなら本作の筋を思いっきり略すと
子供と触れ合ってこなかった男が今まで他人だった実の子供と過ごし
子供と向き合うようになった結果、親子は血のつながりではなく
過ごしてきた時間だということに気が付く

(ネタバレになるので反転させました)
ということになるからで
ここで「エリート主義で子供をつき離し厳しく接する」
やり方を正とすると話が成立しなくなってしまいます。

なんかどこかのレビューで
斉木家のような父じゃないとダメといわれているような気がしてヤダ
というような感想を見ましたが
両方完全にフラットに書いちゃうと話が成立しないし
そもそも映画なんだから多少は作者に視点が入って当然なんじゃないでしょうか?
なんか腹が立ったので反論してみました。

そして父になる2

■演出
知ってる人は知ってると思いますが
是枝監督は現代の日本映画会でも非常に強い作家性を持っている監督で
とにかく移動ショットがほとんどありません。
また、光を全体に回したがる傾向がある邦画界において
陰影をことさらに強調する画作りも特徴的です。

本作で印象に残ったのが良多の妻、みどりが斎木家に泊まっていた
息子を迎えに行った帰りの電車のカットで
なんとここではカット尻で車内が陰になって真っ暗なまま終わってしまいます。

普通であればもちろんこのカットは完全にNGなのですが
逆にみどりの心情が浮き彫りになる象徴的なカットになりました。

またシーンつなぎのパターンが極めて限定的で
カットインカットアウト(普通に画から画につなぐ方法)か
フェードインフェードアウト(黒味にディゾルブさせる方法)
しかありません。
こういうところにも過度な装飾を拒む作家としての潔癖性を感じますが
あまり普段映画を観ないライト層の観客には逆に安っぽく感じられる
こともあるのではないでしょうか。
なんかつなぎが学生映画みたいだったという意見をみた気がしたので
書きました。

■まとめ
なんだかんだと取り留めなく書きましたが
本作は面白い映画かどうかは置いておいて
間違いなく今年の邦画の中では最高レベルの作品です。

必見です。

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